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横浜地方裁判所 昭和43年(ワ)1895号 判決

原告

高橋正美

外五名

右原告六名訴訟代理人

久保田昭夫

外四名

被告

日本ナショナル金銭登録機株式会社

右代表者

石川繁一

右訴訟代理人

倉地康孝

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判。

一、原告ら、

(一)  被告が原告らに対して、昭和四三年五月二七日付でなした別紙懲戒処分一覧表処分内容欄記載の各出勤停止処分は、いずれも無効であることを確認する。

(二)  被告は原告らに対して、別紙懲戒処分一覧表賃金カット額欄記載の金員および右金員に対する昭和四二年七月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

(四)  (二)項につき仮執行の宣言。

〈中略〉

第四  被告会社の主張

五、原告らの出勤停止処分の期間に差異を設けたのは、原告ら各人に対する次の事情を特に情状として考慮したものである。

(イ)  原告高橋、同橋本はそれぞれ支部執行委員長、副執行委員長として、今回の一連の就業規則違反行為を率先指導、実行してきたこと、および原告高橋はすでに二回の懲戒処分((一)大磯工場ロビー前において無許可職場集会を強行したことにより昭和四〇年一二月二九日に出勤停止一日の懲戒処分、(二)会社誹謗のステッカーを貼つたこと、大磯町政を中傷し会社の名誉信用を毀損した文書の配付、会社役員を誹謗した文書の配付、違法ピケツテイングの実行等により昭和四一年一〇月三一日から一一月二日までの出勤停止三日の三日の懲戒処分)を受け、また原告橋本は三回の懲戒処分((一)原告高橋の(一)の処分に同じ、(二)無許可ビラを就業時間中に工場内で配付したことにより昭和四一年二月二日から四日までの出勤停止三日の懲戒処分(三)原告高橋の(二)の処分と同じ理由により昭和四一年一〇月三一日から一一月五日までの出勤停止五日の懲戒処分)および訓戒一回(会社備品の処理問題により昭和四〇年七月二九日訓戒)を受けているにもかかわらず、何ら反省の色をみせず、繰り返し就業規則違反行為をかさねてきたことを勘案し、二労働日の出勤停止処分にしたものである。

(ロ)  原告鈴木光男は支部四役の一人である副書記長として、前記就業規則違反行為を率先指導、実行してきたことは原告高橋、同橋本と同様であるが、過去において一度も懲戒処分を受けていないことを特に情状として斟酌し、今回は一労働日の出勤停止処分にとどめたものである。

(ハ)  原告藤原、同青木、同鈴木広明はいずれも支部執行委員として前記就業規則違反行為を指導、実行してきたものであるが、前述の原告高橋ら四役とは責任の度合に若干の差異あることを認め、もとより過去において一度も懲戒処分を受けたこともないので、これらを考慮し、今回は一労働日の出勤停止処分にとどめたものである。なお訴外吉田裕昱、同高橋赫三は、それぞれ支部書記長、同執行委員であつたが、当時はいずれも解雇されていたので、懲戒処分に付されなかつたものである。〈後略〉

理由

一、被告会社は肩書地に本社を、東京都大田区仲六郷に蒲田工場を、神奈川県中郡大磯町大磯二、三三三番地に大磯工場を有するほか、全国主要都市に営業所を設置して、金銭登録機、計算機、加算機、電子計算機等の製造、販売、修理等を含む会社であること、原告らは、いずれも被告会社に別紙入社一覧表入社日欄記載日にいずれも期限の定めなく雇傭された被告会社の従業員であることは、いずれも当事者間に争いがない。

二、そして被告会社が昭和四三年五月二七日付で原告らに対し、別紙懲戒処分一覧表記載のとおりの本件懲戒処分をなしたことは、原告藤原を除くその余の原告らの賃金カット額の点を除いて当事者間に争いがなく、他に立証のない本件においては、右賃金カット額は原告高橋については金二、三四一円、原告橋本については金一、七一五円、原告鈴木光男については金九九九九円、原告青木については金一、二八九円、原告鈴木広明については金一、二五七円とのそれぞれ当事者間に争いのない額と認定せざるを得ない。

三、よつて、以下被告会社のなした本件懲戒処分が相当か否かにつき順次判断する。

(一)  〈証拠〉を総合すると、次の事実を認めることができる。

支部は昭和三九年一〇月分裂し、支部のほか新たに日本NCR労働組合が結成された。このため支部としては益々いわゆる教宣活動を活発にすることとし、昭和四〇年四月一二日その日刊の機関紙として「おはようみなさん」を発刊し、支部の活動方針、要求等を掲載し、以後毎朝大磯工場一号館入口において支部組合員が出勤してくる従業員に対し手渡しの方法で配付を続けてきた。

ところで支部はそれまで、その本部、支部の発行する機関紙等の配付については、支部事務所に設けられた各職場別の状差しの中に支部書記局員が投函しておき、各職場委員がこれを始業前または昼の休憩時間中に各職場に持ち帰つて、昼の休憩時間中に各職場組合員に配付するという方法がとられていたが、前記のように支部が分裂しその教宣活動を活発にするとの意図から、「おはようみなさん」については、出勤時の従業員に対し手渡しの方法で配付することにしたものであつた。

これに対して被告会社は、「おはようみなさん」第一号が配付された四月一二日の配付中に、北原労務課長をして事前に許可を得ていないビラは就業時間外といえども、被告会社敷地内で配付してはならない旨申し入れたが、支部はこれに応じないまま、以後も同様の方により配付が継続されている。晴天の日は大磯工場一号館AおよびCブロックの各通用口前の幅約1.8メートルの通路上の両側に、それぞれ数名並び、雨天の日には同通用口内のタイムレコーダーの設置しあてある通路上の両側または片側に数名宛並んで、毎朝始業時刻前出勤して来る従業員の前に「おはようみなさん」(その大きさは殆んどわら半紙の半切ないし四分の一切の大きさで一枚のもの)を、一枚宛差し出すというものであり、大磯工場においては、従業員の相当多数が国鉄平塚駅から会社構内まで乗り入れるバスで通勤してくる関係上、従業員が比較的集団で右通用口を通行することが多く、このため通用口の通路幅が前記のように狭いこともあつて、従業員の殆んどがこれを受けとつていた。しかして前記のとおり支部は分裂し、別に日本NCR労働組合が結成されていたこともあり、手渡された「おはようみなさん」はその場に放置、散乱することも多かつた。

被告会社としてはその後も支部に対して無許可で配付してはならない旨警告するとともに、支部に対し協議を申し入れ円満解決を図ろうとしたが、支部としては、機関紙の発行および配付は組合活動として自由であり、被告会社と話し合つて配付方法を決めるべきものではないとの立場から話し合いは出来ず、昭和四〇年五月一五日米沢労務部長が支部三役と会見し、北原労務課長と話し合つて善処するよう要請した。その後支部と北原労務課長との話し合いとなり、その中でビラボックスの設置等の提案も被告会社からなされたが、配布する「おはようみなさん」を許可制とするとの前提では話し合いに応じられないとして支部の拒否するところとなり、また支部が、右問題を不当労働行為であるとして、昭和四〇年七月一〇日神奈川地方労働委員会に救済申立てを行なうに至り、以後被告会社と支部との右問題に対する協議は、昭和四三年二月被告会社が申し入れるまで中断された。その間も「おはようみなさん」は従前どおりの方法で配付されていたが、被告会社としては、労働委員会において解決しようと考えていたもので、右配付を容認したわけではなかつた。被告会社は右配付問題をいつまでも未解決のまま放置しておくわけにもいかないため、右労働委員会の判断をまつて解決することを断念し、昭和四三年二月九日、一四日、二八日の三回に亘り、支部に対して協議の申し入れをなし、結局同年三月一三日および四月三日に団体交渉が開かれ、被告会社は「おはようみなさん」の配付が許可制とのたてまえをとるなら、その配付方法について十分話し合うとの考えであつたが、支部は、配付は組合活動の一手段であるから被告会社の許可を求める必要はないとの考えであり、話し合いは全く進展しなかつた。そのため被告会社は同年四月一〇日文書をもつて支部に対し、支部が従来から続けてきた配付方法は認められないこと、およびビラボックスを同日工場建物内に二カ所設置したので、同日以降支部は配付にあたつてはビラボックスを利用することとの通告をなし、各通用口の組合掲示板下に状差し状のビラボックスを設置し、これを使用するよう指示したが、支部は依然として従前の方法により「おはようみなさん」を配付しているので、被告会社は、北原労務課長等により、支部に対し配付の方法につき警告したが、支部の右配付方法は変わるところがなかつた。

昭和四三年四月一九日、同月二三日、同年五月八日は、いずれも雨天であつたため、支部は大磯工場一号館AおよびCブロックの各通用口内のタイムレコーダーを設置してある通路上で「おはようみなさん」の配付を行つた。

すなわち、四月一九日は午前六時五〇分ころから午前八時ころまで、原告鈴木光男、同藤原靖生らは支部組合員らとともに、四月二三日は前同時刻ころの間原告青木清、同高橋正美らは支部組合員らとともに、五月八日は午前六時四五分ころから午前八時ころまで原告高橋正美、同鈴木光男らは支部組合員らとともにいずれも出勤してくる従業員を通路の片側ないし両側から迎える形をとり、しかも従業員が雨天のため雨具等を所持していたことから混乱が全くないとは云えなかつた。しかも上記原告らはいずれも配付現場において、被告会社の北原労務課長らの制止、警告を受けたにもかかわらず、右配付行為を実行した。

また同年四月三〇日午前六時五〇分頃原告青木清は組合員一名とともに一号館Bブロック男子ロッカールーム内で折柄一直勤務につく従業員らに対し「おはようみなさん」の配付を行なつた。

以上の配付のころ、原告高橋正美は支部執行委員長、同橋本桂三は同副執行委員長、同鈴木光男は同副書記長、同青木清、同鈴木広明、同藤原靖生はいずれも同執行委員をしており(原告らが上記のとおりの役職にあたつたことは当事者間に争いがない)、積極的に右配付方法を支持推進してきたものである。

以上の事実を認めることができ〈証拠判断省略〉。

(二)  右認定事実によると、原告らの所属する支部の発行する「おはようみなさん」は、支部の活動方針、要求等を記載した機関紙というべきものであり、その発行自体は、組合の活動として当然に許されるものということができる。

しかし右「おはようみなさん」が、被告会社工場内で配付されたこと前記認定のとおりであるところ、およそ企業の有する施設管理権は、企業がその企業目的に合致するようその施設を管理する権限であつて、単に物的管理権のみを指称するものではないというべきであり、したがつて組合に対する関係においても、その組合の活動が、使用者の建物、敷地等を利用して行なう場合には、使用者の施設管理権に基づき、使用者の意思に反して活動することはできず、このことは特段の事情のない限り、休憩時間中あるいは就業時間外のものであつても変わるところはないといわなければならない。

これを本件についてみると、前記のとおり、大磯工場においては、昭和四〇年四月一二日以前は同工場入口においてビラを手渡すといつた配付方法がとられていなかつたこと、支部のとつた配付方法に対し被告会社は配付につき被告会社の許可をとるよう再三申し入れ警告をなしていること、配付場所の通路が狭いため従業員の出勤に混乱を生ずることは皆無ではなく、特に雨天の日には混乱を生ずる場合のあつたこと、「おはようみなさん」の配付については被告会社はビラボックスを設置して配付方法を考えていること等の事実が明らかであつて、右事実下において、あくまで配付についても自由であるとの考えから自己の立場に固執し、被告会社指示に従わなかつた原告らの行為は、相当とは言い難い。他に原告らの行為を正当な組合活動として肯定しうる特段の事由は認められない。

したがつて被告会社が原告らに対し、〈証拠〉を総合して認められる事由すなわち被告主張のごとき原告らの過去の社規違反歴その他の勘案により就業規則一一二条号七(編注、「社員の行為が次の各号の一に該当する場合は情状に応じて譴責、減給、出勤停止、昇給停止、又は降格に処する。」第七号「業務上の指示、命令に従わず会社の秩序を乱したが、その情軽いとき」)を適用して、本件懲戒処分を課したことは被告会社の有する適法な懲戒権の範囲内にあるものというべく、原告らの主張はいずれも理由がない。

四、よつて原告らの本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(柏木賢吉 花田政道 板垣範之)

〈懲戒処分一覧表省略〉

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